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3 「いいか、大人しくしてるんだぞ。」 「うん。行ってらっしゃい。」 朝になって、祐希はいつものように 狩に出かける支度をしながら昴治に声をかけた。 見送る昴治の笑顔が、なぜか懐かしい。 朝、目を覚ましてひどく驚いた。 キラキラと光るものが視界に写っている。 それが何かに気付いて、祐希は息を呑んだ。 そっと視線を落とすとそこには昴治の顔。 まだ夢の中にいるらしく、青い瞳は瞼の下に隠されている。 何か暖かいと思ったら、 昴治は体をぴたりと祐希に寄せて眠っていたのであった。 視界に入っていたものは朝日に光る彼の髪で。 思わず飛び起きると、昴治がううんとうめいて目を覚ました。 「ん…。あ、祐希。おはよう。」 歩きながらふと溜息をつく。 何をしていても、浮かぶのは昴治のことだけだった。 昨日あったばかりだというのに、 まだ何も知らないというのに、 こんなにも自分の心を占領する少年。 少しだけ微笑んだその表情が、 脳裏に焼き付いて離れない。 自分に、自分だけに向けられた笑みなのだと そう思えば、やんわりと満たされる気がして。 もう離したくないと思った。 物に執着しないと自覚しているだけに少し戸惑う。 今日の収穫はゼロだった。 「あ、お帰りなさい。」 扉を開けて驚いた。 「何やってんだ、あんた!」 「ご、ごめん…。勝手にこんなことして…。」 怒鳴ると、昴治がビクリと肩をすくめて小さくなる。 食卓に並ぶ温かそうな料理たち。 祐希が狩りに出ている間に作ったのだろう。 いい匂いが部屋を満たしている。 フンと鼻を鳴らす祐希に、昴治はさらに小さくなる。 「あの…ごめん…。」 「そうじゃねぇよ。」 溜息をつくと、祐希は少し俯いて前髪を掻きあげた。 「あんた、足が痛いんじゃねぇのかよ…。」 と、意外そうに昴治が顔を上げる。 「でも…あんまり痛くないんだよ。」 「少しだって、痛いのは痛いんだろうが。」 イスを寄せ、昴治に座るよう促す。 「けが人はけがを治すことだけ考えてりゃいいんだよ。」 ぶっきらぼうに言うと、昴治がやわらかく微笑んだ。 「うん…。でも何もしてないのって、落ち着かなくてさ。」 何度も座りなおす様子に、なんとなく納得する。 自分も隅にあったイスを引き、向かい合うように座った。 「無理なことはしないから…だから、祐希が外に行っている間 洗濯とか掃除とか…しててもいいかな…。」 控えめに問う声。 しかし祐希はそれには答えず 黙って食事に手を伸ばした。 それを見た昴治が慌てて立ち上がる。 「あ、俺やるから…。」 ボウルからサラダを取り分け、祐希に手渡す。 「はい。」 温かなスープをよそう昴治はなんだか嬉しそうで 祐希は文句の言葉を飲み込んだ。 「祐希…?どうしたの?」 じっと睨みつける視線に昴治が少し体を竦ませた。 「…勝手にしろ!」 怒鳴って、祐希はまた黙々と食べ始める。 驚いた気配がして。 「うん!」 とたんに明るくなる声に明確な答えを見出す。 間違いなく、自分は本気なのだ。 そういえば、こんな温かい食事なんて久しぶりで 気が付けばお腹いっぱい食べてしまっていた。 サラダもスープもすっかり空になって 嬉しそうに、昴治は後片付けをしている。 小さく口ずさんでいる歌は どこか寂しげで、けれどひどく優しい歌だった。 ああ、眠いな…。 「あれ、祐希?」 洗い物を終えてふと見ると、 ベッドに無造作に体を投げ出して聞いていた祐希が うとうととまどろんでいる。 「そんな格好で眠ったら風邪ひくよ。」 苦笑して毛布を広げると、 祐希が眠たそうな目で昴治を見上げた。 「でも、祐希はあったかいから大丈夫なのかな。」 「なんだよ、それ…。」 苦笑する昴治に問う。 「なんだろう?でも、祐希はあったかいよ。」 自分でも良く解らないらしい昴治に、目を細める。 手を伸ばして頬に触れると、少し低めの体温が伝わって 祐希はそのまま腕に力を入れて彼を抱き寄せた。 「ゆう…」 「アンタが冷たいんだよ。」 「…。」 「暖めてやる。」 細い細い月の光が 枯れた言葉で囁いている。 わたしの声は 届いていますか? その夜、 祐希は昴治を抱きしめて眠った。 ---------------------------------補足ぅ! はいです、3話目です。 うふふ…大体大筋が見えてきて 望月さん結構ご満悦です。 今回なんか甘いですね。 新婚さんみたい〜vとでれでれ書いてみました。 さすがに「あなた〜」とはいきませんが(笑) でも、実際あなたなんて呼んでる夫婦って 私見たことないんですが… ちなみに今回、この二人 ”ヤって”ませんです…。 |