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2 湯気の立つカップを両手に持って、 昴治はふうふう吹きながら熱いミルクを飲み干した。 それを、祐希はじっと見つめている。 昴治が目覚めてもう一つ解った事があった。 「アンタが俺より年上なんてな…。」 信じられないというように、 祐希は頭をがしがし掻いた。 とたん申し訳なさそうにうつむかれて "しまった"と思う。 昴治は記憶が落ちているせいか ひどく臆病だった。 祐希の一挙一投足にさえ 伺うように目をむける。 確かに自分はあまり愛想がいい方ではないが、 かといって怯えられるとどうしていいか解らない。 「本当に…いいのか…?」 ふと問い掛けられて、祐希ははっと顔を上げた。 考え込んでしまった祐希の様子に不安になったらしい。 「アンタが嫌じゃなけりゃな。」 「う…うん…。」 祐希の言葉に、昴治は躊躇いつつ頷く。 ふとその顔が汚れたままであることに気付いて、 祐希は横にあるタオルを手に取った。 きょとんと見上げる昴治の顔を無造作に拭う。 顔をしかめつつもされるがままの昴治にちょっと気を良くして、 そのまま手を取り汚れを拭い落とす。 思いのほか細い指が、やわらかく祐希の手を握り返した。 胸に広がるのは、暖かいもの。 「何だって、俺は…。」 小さな呟きに「なに」と聞き返す声。 それには答えず、祐希は立ち上がりクローゼットに手をかけた。 奥をあさってようやく探し出した服を、昴治に手渡す。 「あの…これ…?」 「少し大きいかもしれねぇけど、それよりはマシだろ。」 言われて、昴治は自分の格好を改めて見た。 シャツもズボンも泥で汚れ、すそが擦り切れてとてもみすぼらしい。 とたん泣きそうに顔を歪める昴治に、 祐希はふいと背を向けた。 「気にすんな…。」 背中越しに空気が揺れたのが解った。 「ありがとう。」 和らぐ雰囲気に、心地良さを感じていた。 今夜は月が出ていない。 窓から見える森は暗い夜を伸張する。 「祐希…。」 名を呼ばれ振り返って、祐希は改めて思う。 いままで一人でいたのだと。 「なんだ、丁度いいな。」 服の大きさがぴったりだったので、祐希はちょっと意外そうに彼を見た。 昴治は困ったように首を傾げる。 「昔着てた服だったか?…まぁいい。」 脱いだ昴治の服は適当に籠に放り込む。 ボロになりすぎている。 捨てるしかないだろう。 「さて、と…。」 ちらりと窓の外を見やり、大きく伸びをする。 「そろそろ寝るか。」 言われて、昴治はハタと辺りを見回した。 小さな部屋には一台しかベッドは無い。 慌てて降りようとして祐希に止められた。 「アンタはそこで寝ろ。」 クローゼットから引っ張り出してきた毛布の埃を払いながら言う。 「でも…だって祐希はどこで寝るんだ…?」 「どこでだって寝られんだろ。」 戸惑う昴治につっけんどんに返した祐希は、 そのまま床にごろんと横になった。 硬い木の床だが、毛布に包まれば眠るのに支障はない。 「だ、だめだよ!」 しかし昴治は慌ててベッドを降り祐希に駆け寄った。 と、急に走った激痛にガクンと崩れ落ちる。 「バカか…!」 祐希は咄嗟に昴治を抱きとめた。 いちばん酷いケガをしていた足。 まともに床についてしまったから、相当の痛みが走ったに違いない。 現に昴治は息を詰めてぐっと体を硬くしている。 「…大丈夫か?」 「うん……。」 そういうものの、声は小さく震えていた。 昴治が落ち着くのを待って、抱き上げベッドに戻す。 「アンタ怪我人なんだぜ、自覚しろよ。」 無理やり布団の中に押し込めるが、 昴治はふるふると首を横に振った。 「でも、祐希のベッドだよ。」 「俺は、いい。」 それでもだめと祐希の服のすそを掴んで引き止めた昴治は、 何か思いついたらしくふと顔を上げる。 「じゃ、一緒に寝よ?」 何かと思い聞きに入っていた祐希は、 耳に飛び込んできたその言葉に むせるほど驚いてしまった。 「な…何言ってんだアンタ!」 「そうしたら、俺も祐希もベッドで寝られるだろ?」 深い意味など、無いに違いない。 それ以上に、男相手にこれほど焦っている自分はおかしいに違いない。 けれど、 「ね?」 と、昴治が微笑むから。 向けられた微笑みに、祐希の心は震える。 それに抗うことが出来ずに、祐希は灯りを消し同じベッドに入った。 新月の夜 暗い夜 微かに瞬く星の光に浮かぶ 自分の隣にある安らかな寝顔に 恋をしてしまったことを 祐希は知った。 ---------------------------------補足ぅ! はいです、2話目です。 なんだかパラレルにしすぎて「どこがリヴァイアス?」な感じです。 2話目にしてこれでは先が思いやられるというかなんと言うか… とても強くオリジナル色が出てしまった気がします。 とりあえず、痛い系のハッピーエンドに進路を固定して 亀の歩みで驀進してまいりますです。 ところで一つ気付いたのですが、自分は痛い話を書こうとすると 話がやたら長くなるらしいです。 短くまとめようとするとなぜか甘くなるようです。 終わりまでの長さを特に考えていない今回は 遠慮なく痛い話が書けそうです(爆 |