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4
少し進んで、祐希はまた振り返った。
「このあたりは足場が悪いからな。気をつけろよ。」
その後を頼りない足取りで付いてくる昴治に手を差し出す。
「あ…うん。」
少しためらってから、昴治はその手を取った。


昨日。
狩りを休みにして家にいた。
昴治は祐希がいるのが嬉しいらしく、
一日中部屋の中を走り回って働いていた。
それはまるでメイドでも雇っているような錯覚を覚える程だったが、
いいと言っても聞かないだろうと、そのまましたいようにさせて置いた。
昼食の後も、祐希にはお茶を出して置いて
自分は窓拭きを始めてしまう。
楽しそうなその背中をぼんやり眺めていると、
ふと昴治が振り返った。
気恥ずかしさに目を逸らす。
が、昴治はそれを気にした風もなく彼に笑いかけた。
「ねえ、祐希。」
答える代わりに顔を上げる。
それは了承だ。
「明日は?」
「…明日?」
じっと見てくる昴治に、心が跳ねる。
「うん、明日は狩りに行くのか?」
「…ああ。」
少し考えてから、祐希は渋い顔で頷いた。
いつもその日食べる分しか捕らないので、
基本的には毎日行くことになる。
今日は昨日少し多く捕ってしまったから行かないことにしたのだ。
「じゃあさ…。」
言いにくそうな昴治を促すと、昴治は少し顔を赤らめた。
「俺も、一緒に行っても良いかな?」
「行くって…外へか?」
「ダメか?」
ダメも何も足の怪我はまだ治っていないのだ。
靴だってない。
しかし、祐希にはダメだと一蹴することも出来なくて
悩んだ挙句、良いと答えた。
「けど、無理そうだったらすぐ戻るからな。」
「うん。ありがとう。」
昴治は答えた。


そして今日。
どうにか探し出した靴は大きさが合わなかったが、
包帯を厚めに巻くと、なんとか収まった。
服の上に薄い上着を羽織らせて外へ連れ出す。
いつもは見送る昴治が一緒に歩いているのは不思議な感じだった。
それは昴治も同じようで、落ち着かなさげに
そわそわと辺りを見回しつつ付いてくる。
そのせいで、何度か下草に足を取られて。
転びそうになる昴治をさりげなく支えてやる。
その度に、何か不思議な温かさが胸を満たした。
森の中は常にいろいろな危険に満ちている。
本当ならちゃんと伝えて気をつけさせるべきなのだが
余計な不安を与えたくなくて、黙っていた。
昴治には笑っていて欲しいから。
けれど何より、何があっても守ってみせると心に決めていたので、
祐希はぬかるんだ地面の上を漸く歩いている昴治に手を差し伸べた。
「ありがと、祐希。」
その手をやわらかく握って、昴治が微笑む。
それだけで幸福だと感じた。


帰ってくるともう外は暗くなっていた。
灯りをつけ早速夕飯の支度に取り掛かった昴治は
とても嬉しそうで、祐希は連れて行ってよかったのだと思う。
二人で食卓を囲んでからも、昴治はにこにこと祐希を見つめていた。
「すごいな、祐希。」
しきりに感心している昴治に苦笑する。
すごいと言っても今日の収穫は中型の鳥が一匹だけだ。
もっと大きなものを取る事だってよくあるのだが
やはり昴治がそばにいて気を取られたのだろう。
それでも、何も取れなければ昴治が気を使うだろうと、
そしてなにより、昴治の前でいいところを見せたいという思いで
何とか仕留めたのだ。
自分にもそんな見栄があったのだと、逆に感心してしまったくらいだった。
「すごいな…」
心底感心しているらしい昴治は、嬉しそうにそう繰り返す。
「そうか?」
「そうだよ!」
祐希が不思議そうに問うと、昴治が当然だと返す。
「ねらいを定める時にさ、シン…って、音がなくなるんだよ。
音が戻った時にはもう矢が獲物に刺さってて…。」
興奮気味に、昴治は見ていた様子を語る。
そんなに喜ぶなんて、思っていなかった祐希は
なんだかくすぐったくて、俯いて表情を隠した。
「行って良かったか?」
「もちろん!」
「なら、またそのうち連れてってやるよ。」
さりげなく言うと、視界の端で昴治が微笑んだ。
「あ、祐希、あれ…見て…。」
言われて顔を上げると、昴治が立ち上がり窓へと近づいた。
つられるようにして窓辺に向かう。
上を見上げている昴治に倣って自分も空を見上げた。
「綺麗だね…。」
「…。」
頭上では光を蓄え始めた月が、窓辺に立つ二人を照らしていた。
強い風が吹いているのか、木の葉が飛んで度々月に影を落とす。
確かにそれは綺麗だったが、祐希はそれよりも
その光を浴びた昴治の方に気を取られてしまっていた。
月なんかより、よっぽど綺麗だと思う。
ぼんやりと光る細い首筋は触れたら消えてしまいそうなほどで。
昴治がそこにいることを確かめるように、祐希は昴治を後ろから抱きしめた。
突然のことに、昴治が驚くのが解る。
「祐希?」
昴治が振り向けないように、祐希は彼を抱く腕に少し力を込めた。
「一週間…。」
「?」
「一週間だ、アンタが来てから…。」
言えば、昴治は恥かしそうに目を伏せて。
祐希はフッと口元を緩めた。
不思議そうにしながらも大人しく腕の中に収まっている昴治。
驚くほど満たされている自分に、祐希は気付いていた。
小さなランプの光が、揺らめきながら二人の背中を照らしていた。







---------------------------------補足ぅ!
はいです、4話目です。
なにやら時間が掛かってしまいました。
一度書いたもの、気に入らなくて全部書き直してみました。
100%とはいきませんが、
50%くらいはましになったかと思います。
とはいえ補足をするほどのことが何も無い話しで…
どうしようって感じですね。

祐希くんはすっかりその気のようですが
昴治くんはいったいどう思っているのでしょうね(滅)
すみません、適当すぎ…。


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