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9

心もとない光を放つ逆三日月の下で言葉を交わす二人の背中を
祐希は窓越しにじっと見つめるしかなかった。


「じゃあ、そういうことだから。」
昴治を伴い外で話し込んでいた男は、戻ってくるなりそう言った。
声音は穏やかで、口元には微かに浮かぶ笑み。
けれど、その身がまとう隠し切れない冷えた空気は
祐希の警戒心を波立たせるに充分だった。
男に背中を押されて一歩前に出た昴治を、奪い返すように自分の方へ引き寄せる。
昴治は「あっ」と短く声を上げただけで一切抵抗はしなかった。
昴治から男が見えないようにその頭を胸に抱え込んで、祐希は男を睨みつけた。
それでも、男は笑みを崩さない。
「3日後。3日後の夜にまた来るよ。それまでに、答えを決めておいて。」
祐希などそこにいないかのように。
昴治へと話し掛けるその声は、酷く穏やかだった。
言葉なく、祐希は男を射抜くような視線で見据える。
「じゃあ、また。おやすみ、昴治。」
扉に手をかけて、一度振り向いた男が祐希に向けた視線はどこか哀れみを含んで見えた。
気に入らない。
ぎし、と奥歯を噛み締める。
「イクミ」と。
確かに昴治は男の名を呼んだ。
それが何を意味するのかわからぬほど、祐希も馬鹿ではない。
名を知っているのは、過去にあったことがあるからだ。
そう、昴治が今まで忘れてしまっていた、祐希と出会う前の過去に。
心の奥で警鐘が鳴り響く。
男は言った。
「迎えにきた」と。
そして自分と行こうと言った。
戸惑う昴治は、きっとまだはっきりとは思い出していないのだろう。
ちらりと祐希を気にして、男は昴治とだけ話があると、彼を外へ連れ出した。
何を話していたのか、中にいた祐希にはわからなかったけれど、
男が何か言う度に、昴治は酷く悲しげな顔で頷くのだ。
いけない。
このままいたら、3日のうちにきっと昴治はみんな思い出してしまう。
そして自分のもとから離れていってしまう。
嫌だ、嫌だ…!
離したくない!
俺にはもう、これしかないんだ……!
知らず腕に力を込めると、
「祐希…。」
うめくような声に、祐希は、はっと身をこわばらせた。
ずっと腕の中に抱きしめたままだった昴治が、
きつく抱きすくめられすぎて苦しそうに身じろいでいた。
しかし、祐希にはその腕を解くことができなかった。
「あんた…。」
祐希を見上げ、その切迫した表情に眉を寄せる昴治の顔を覗き込む。
「あんた、あの男と行くのか…。」
問いかけたのは自分、けれど答えは聞きたくなくて。
俺は、と唇が開いた瞬間噛み付くように口付けた。
驚いて身を引こうとするのを許さず、もっと強く抱きしめて口付けを深くする。
「う…ん……んんっ…!」
それでも、昴治は必死で抵抗をしていたが
しばらくそうしているうちに、押し返す腕の力はやがてたよりなく震えるものへと変わった。
それに気付いたからかどうか、自分でももうわからない。
唐突に唇を離すと、昴治は急に空気を吸い込んで激しくむせ返った。
「…っ、祐希…。」
掠れた声で、訴えるように名を呼ぶ昴治の細い腕を掴み、
引きずるようにして部屋の奥へと向かう。
そのまま、いつも二人が寄り添って眠るベッドの上に、乱暴な動作で昴治を押しやった。
抵抗できず、昴治がベッドの上に倒れ込むと、その上にのしかかり再び激しく口付ける。
「…っあ…ん…ゆ、祐希……っ。」
力なく、それでも必死に押し返す昴治の腕を難なく押さえ込んで、
欲に濡れた唇を細い首筋へと這わせた。
鼻をつく微かな匂いに正常な感覚が麻痺していく。
「あ……ゆ、祐希…。だめだ…だめだよ…。」
それでも首を振って必死に訴える昴治を、祐希は腕を押さえ込んだまま見下ろした。
「だめだ、祐希…。」
「そうかよ。」
祐希を止めようと紡がれた言葉に、祐希は口の端をゆがめて笑った。
「なら、嫌じゃないんだろう…?」
とたん、昴治の顔にさっと朱が走った。
悲痛な顔で、祐希を見上げる。
けれど、それはもう祐希の欲情を煽るだけだった。
目を細め、羞恥心を煽るようにゆっくりと顔を近づけて耳元に低く囁く。
「安心しろ。頭ん中ブッ飛ぶくらいよくしてやるよ。
あんたはただ俺にすがり付いて爪でも立ててりゃいいんだ…!」
「祐希……っ。」


細い体を押さえこんで、そして祐希は強引に昴治を抱いた。
昴治はそれ以上抵抗らしい抵抗はしなかったけれど、
激しい快楽にのまれ気を失ってすら、
彼の腕が祐希の背中に回ることは一度もなかった。


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---------------------------------補足ぅ!
はいです、今回はがんばりましたの9話目です。
イクミが何を考えているのか。
昴治はどうするのか、祐希は?ってことで
切なげにクライマックスめざして進みます。
はふ。もうちょっと、もうちょっとで制限がなくなるので
少しは書くのも楽になるでしょうか…。(自業自得だろ)

ところで、今回ベッドシーンってことで
一度くらい逃げずに書かなくては、と思い
実はかなり頑張ってエ○書いたのですが
(それだけで1週間もかかったよ/汗)
やっぱり表に大っぴらにおくわけにはいかんだろうと
省略バージョンでUPになりました。
しっかし、エ○書きながらの私の動揺の仕方と
挙動不審さといったらもう…VTRで流したいくらいですよ(笑)
ほんとエ○に向かないんだなぁ…。


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